現在では超高齢社会化が進み、高齢者の健康寿命を延ばすことが急務です。

近年、フレイル（虚弱）が健康寿命に与える影響が注目され、その予防・対策が重要視されています。従来の研究では主に身体機能や認知機能に重点が置かれてきましたが、最近では「オーラルフレイル」という新たな概念も注目されています。

今回は、オーラルフレイルと歯科訪問診療の関係性を含め、高齢者の健康寿命延伸に向けた新たな視点を述べます。

高齢者の歯科受診状況

高齢者の歯科受診率は、70～74歳をピークに急速に低下し、80歳以上では約2割にまで減少します。

これは加齢による体力低下や通院の負担増加が原因と考えられています。

また、適切な口腔衛生管理が行われないと、虫歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎や摂食障害、さらには認知症のリスクも高まります。

特に高齢者は免疫機能が低下していることが多いため、歯科疾患の重症化や合併症のリスクも高くなります。

歯科訪問診療とは

歯科訪問診療は、要介護の高齢者が在宅や施設で歯科治療を受けられる制度です。

歯科医師や歯科衛生士などの歯科医療スタッフが患者さんのもとに赴き、虫歯治療、歯周病治療、義歯製作・調整、口腔衛生管理などを提供します。

この制度の必要性は、

• ●外来受診が困難な場合でも歯科治療を受けられること
• ●入院や施設入所による歯科医療の断絶を防ぐこと
• ●口腔の問題が全身にまで影響を及ぼすことを防ぐこと
• ●咀嚼・嚥下障害の早期発見と対応

が挙げられます。

終末期においても、口から食事を摂取することはQOL（生活の質）向上に大きく貢献し、歯科訪問診療では、そのための最適なケアを提供します。

歯科訪問診療の内容

• ・歯科訪問診療で行われる治療内容は、外来での治療内容と大きくは変わりません。具体的には以下のような治療が行われます。
• ・虫歯治療: むし歯を削り詰め物をする、被せ物をする、根管治療を行うなど。
• ・歯周病治療: 歯周ポケットの清掃、歯石の除去、必要に応じた処置。
• ・義歯製作・調整: 新しい義歯の作成や既存義歯の調整。
• ・口腔衛生管理: 歯磨き指導、義歯の清掃、口腔検査。

歯科訪問診療の制約と重要性

歯科訪問診療には独自の制約もあります。治療時の姿勢や照明の制約、患者の全身状態による治療内容の制限、必要な医療機器を持ち運ぶための制限などです。

また、訪問診療では、同僚の歯科医療スタッフをはじめ、他職種の方々、そして患者さんとのコミュニケーションが特に重要であり、しっかりと相手の話を聞き、適切な対応を提供することが求められます。

受診方法

歯科訪問診療を受診するには、まずかかりつけの歯科医院に相談し、訪問診療を行っているか確認します。

対応が難しい場合は、他の医療機関や市町村保健センターなどの行政機関、主治医や介護職の方々に相談することが推奨されます。

今後の展望

在宅医療の充実は日本の医療全般の重点課題の一つであり、歯科訪問診療の提供体制の充実に向けた取り組みが進められています。

歯科訪問診療は医療保険や介護保険も適用されますので、詳細については、居住する自治体や加入保険社に確認することが推奨されます。

オーラルフレイルへの対策

オーラルフレイルは、加齢による口腔機能の低下だけでなく、社会的、精神的、栄養面などが複合的に影響する不自然な衰えを指します。

オーラルフレイルの予防・対策として、訪問診療が有効です。

訪問診療は、外来受診が困難な高齢者に対しても継続的な口腔ケアを提供し、咀嚼・嚥下機能の維持・向上を図ることができます。

そのため、オーラルフレイルの早期発見と対策は、フレイルの予防、介護予防、医療費削減に貢献すると期待されています。

オーラルフレイルは口の問題だけでなく、全身の健康と密接に関係しています。

これからは歯科医療だけでなく、医療、介護、福祉、地域社会全体で連携し、オーラルフレイル対策に取り組むことが重要であると考えます。

オーラルフレイルについて

まとめ

このように、歯科訪問診療は高齢者の健康寿命延伸に向けた重要な役割を果たします。

訪問診療を通じて、高齢者が適切な口腔ケアを受けることができるようになれば、全身の健康維持にも繋がり、QOLを向上させることが出来ることから、今後、歯科訪問診療の重要性はますます高まっていくことが予想されます。