日本では社会全体の高齢化によって健康寿命の延伸をはかることが急務です。
他方で近年、フレイル(虚弱)が健康寿命に与える影響が注目され、その予防と対策が重視されています。
これまでのフレイル研究は主に身体機能や認知機能が中心でしたが、近年では口腔機能について述べた「オーラルフレイル」という新たな疾病概念が注目されています。
「オーラルフレイル」とは、単なる加齢による口腔機能の低下だけではなく、社会的、精神的、栄養面などが複合的に影響する衰えを指します。またこれは、従来の歯科医療での口腔機能低下とは異なり「オーラルフレイル」は生活機能障害、要介護状態、死亡などに陥りやすいフレイルと深く関与しています。
オーラルフレイルとは
オーラルフレイルは、以下のように段階的に進行します。
- ■レベル1:潜在的なオーラルフレイル:滑舌の悪化、食べこぼし、軽いむせ、食べにくい食品が増える、口の乾燥。
- ■レベル2:口のささいなトラブル:歯の喪失、義歯の不具合、唾液分泌の減少、口腔粘膜の乾燥、口臭。
- ■レベル3:口腔機能低下症:咀嚼機能の低下、嚥下機能の低下、味覚の低下、口腔内の炎症。
- ■レベル4:重度の口腔機能障害:誤嚥性肺炎のリスク増加、栄養不良、脱水、看護・介護の必要度の増加。
オーラルフレイルとなる因子としては、
- ●加齢
- ●糖尿病
- ●高血圧
- ●脂質異常症
- ●骨粗鬆症
- ●うつ病
- ●認知症
- ●薬の副作用
- ●摂食障害
- ●社会的孤立
などが挙げられます。
オーラルフレイルへの対策
対策としては、口腔衛生管理の徹底、口腔機能トレーニング、バランスの良い食事、社会とのつながりの維持などが重要です。
より具体的には、毎日の歯磨きとフロス、定期的な歯科検診、適切な義歯管理などが重要でしょう。
また、舌や咀嚼、発音の運動や嚥下訓練を行い、口腔機能を維持・向上をはかり、さらに、タンパク質やビタミン、ミネラルを摂取し、適度に歯ごたえのある食品を咀嚼して、水分を十分に摂り、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
家族や友人との食事の機会を設け、あるいは地域の活動に参加することで社会とのつながりを維持することも大切です。
8020運動
これらの取り組みとも関連して、8020運動というものがあり、これは80歳でも20本以上の歯を保とうという健康啓発運動です。
この活動は、より多くの方々が歯を含む口腔の健康の重要性に意識を向けることには効果的でしたが、近年の資料によると、歯の数を維持するだけでは口腔機能の維持には不十分であることが示されるようになりました。
そこで日本歯科医師会は、8020運動にオーラルフレイルの概念を加え、口腔機能の維持・向上を目的とする新たな取り組みを進めています。
まとめ
オーラルフレイルは健康寿命延伸の新しい視座です。早期発見と対策は、フレイルの予防、介護予防、医療費削減に貢献すると期待されています。
今後は、オーラルフレイルについての研究をさらに進め、より効果的な対策を開発する必要があります。
また、オーラルフレイルは、歯科医療のみに関わる問題ではなく、全身の健康とも密接に関係しています。
これからは歯科医療のみならず医療、介護、福祉などの多職種そして地域社会全体との連携により、チームのようにオーラルフレイル対策に取り組むことが重要であるのではないでしょうか?